イントロダクション
肺がんは、がん死亡数の順位が1位(2022年)*1であり、適正な薬物療法には、薬剤師のフォローアップが肝要です。
TC療法は、肺がん領域で汎用され、また、婦人科領域でも使用されるレジメンです。血管新生阻害薬(ベバシズマブ)や、免疫チェックポイント阻害薬との併用レジメンも存在します。そのため、TC療法を理解し薬学管理ができるようになれば、併用レジメンの薬学管理にも応用できます。
下記のレジメン一覧&がん種逆引きツールもご活用ください。
レジメン
TC療法
非小細胞肺がん
Day 1 | … | Day 21 | ||
PTX | 200mg/m2 | ○ | ||
CBDCA | AUC=6 | ○ |
子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん
Day1 | … | Day21 | ||
PTX | 175〜180mg/m2 | ○ | ||
CBDCA | AUC=5〜6 | ○ |
制吐療法
カルボプラチン:高度催吐性リスク(HEC)に準ずる
Day 1 | Day 2 | Day 3 | Day 4 | |
アプレピタント | 125mg | 80mg | 80mg | |
パロノセトロン | 0.75mg | |||
デキサメタゾン | 9.9mg静注 | 8mg経口 | 8mg経口 | 8mg経口 |
治療目的
副作用
TC療法に特徴的な副作用プロファイル
パクリタキセルの特徴として、
関節痛・筋肉痛(TC:Grade 2以上でそれぞれ22%・18%)*6、
脱毛(TC:Grade 2以上で45%)*6の頻度が高いです。
また、タキサン系は、壊死起因性抗がん剤に分類*7され、血管外漏出すると組織障害や壊疽を引き起こす場合もあり注意が必要です。
カルボプラチンの特徴として、嘔気・嘔吐(TC:Grade 2以上でそれぞれ25%・22%)*6があります。
パクリタキセル・カルボプラチンの両者で、骨髄抑制(TC:Grade 3, 4好中球減少:88%)*6、末梢性感覚ニューロパチー(TC:Grade 2以上で17%)*6、また、便秘(TC:Grade 2以上で38%)*6が起こることがあります。
細胞障害性抗がん剤に共通する副作用
目安ですが一般的なものを時期とともに記載します。
投与日:静脈炎、急性嘔吐、アナフィラキシーショック
投与翌日~1週間:遅発性嘔吐、関節痛・筋肉痛
1週間~3週間:粘膜障害(下痢、口内炎)、便秘
数週間~数ヶ月:神経障害
1コース終了後くらい:脱毛
血液検査としては、2週間後に好中球がNadir(底)となります。血小板の寿命が7〜10日程度のため、1〜2週間後に低下する場合があります。
赤血球の寿命が120日と長いため、貧血は数コース施行してから起こることが多いです。
その他の副作用:細胞障害性抗がん剤は、正常細胞にもダメージを与えるため、様々な副作用が起こりえます。その中でも間質性肺炎は命に関わることもあり特に注意が必要です。
フォローアップ
薬学管理
時期に応じて副作用を聴取して、疑義照会・トレーシングレポートに繋げると良いでしょう(市販薬のみで自己判断せず医療機関と連携したほうが良いでしょう)。
投与日:静脈炎・血管外漏出がないかを確認(聴取だけだなく目視する)します。必要に応じてステロイド外用薬*7などを提案します。血管外漏出があれば医療機関に連絡の上で受診勧奨も考慮します。
投与日〜1週間:
●嘔気・嘔吐、食事量などを確認します。
必要に応じて制吐剤(予防投与と作用機序の異なるもの*8:例えばD遮断薬や、オランザピンなど)などを提案します。
●関節痛・筋肉痛を確認します。NSAIDs等の鎮痛剤で対応することが一般的です。芍薬甘草湯(非小細胞肺がんに対するTC療法におけるRCT報告*9)が用いられることもあります。
1週間~3週間後:便秘を確認します。必要に応じて定期緩下剤+屯用刺激性下剤などを提案します。
長期:末梢神経障害を確認します。一般的に減量や休薬にて対応しますが、抗腫瘍効果が減弱する点には注意が必要です*10。または、末梢神経障害に対しては対症療法(エビデンスに乏しいがプレガバリンや、保険適応外だがデュロキセチンなど)も考慮します。
生活上のアドバイス
血管外漏出:組織障害や壊死のおそれがあるため、点滴中に痛みや腫れに気づいたらすぐに医療スタッフに伝えるように指導します。
嘔気・嘔吐:不安自体が嘔吐の原因となる*8ため、過度な不安を煽らないように説明します(予防投与がされていることを十分に説明)。それでも発現した場合は、我慢せずに症状があることを伝えてもらうよう指導します(嘔吐の経験は、予期性嘔吐の原因となる*8ため)。また、食べやすいものを食べてもらう(匂いの強いものは食べづらい傾向がある)など、工夫するよう指導します。
関節痛・筋肉痛:痛み止め等で対応できることを説明し、治療を遂行するためにも我慢せずに伝えるように説明します。
脱毛:1コースが終了する前に、ウィッグなど脱毛に対する準備をしておくことを説明します。洗髪の際は、指の腹で洗うようにするなど、頭皮へ負担をかけないように指導します。
好中球減少:化学療法から2週間後は、一般に好中球数が最も低くなるので(Nadir)、手洗いうがいの励行・人混みを避ける・新鮮なものを食べるようにするなど、感染予防に努めるように指導します。
間質性肺炎:空咳、発熱、呼吸困難感があれば間質性肺炎の可能性があるため、受診するよう指導します。
スペシャル・ポピュレーション
腎機能障害
カルボプラチンの投与量は下記のカルバート式で算出します。
Dose = 目標AUC × (GFR + 25)
GFRはクレアチニンクリアランス(Ccr)で代用することが一般的ですが、施設の方針によって異なります。
肝機能障害
AST/ALT | 10×ULN未満 | 10×ULN未満 | 10×ULN未満 | 10×ULN以上 |
総ビリルビン | 1.25×ULN以下 | 1.26〜2.0×ULN | 2.01〜5.0×ULN | 5.0×ULN超え |
PTX | 175 mg/m2 | 135 mg/m2 | 90 mg/m2 | 推奨されない |
ULN:upper limit of normal(施設基準値上限)
参考文献:タキソール®︎米国添付文書*11
参考文献
*1:最新がん統計:[国立がん研究センター がん統計] (ganjoho.jp)
*7:がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン 2023年版 第3版
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者の治療を指示するものではありません。具体的な治療に関しては、担当の医師・薬剤師が最終的な判断を行ってください。
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