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薬ケモ(薬剤師向け化学療法解説)NP(シスプラチン+ビノレルビン)療法

cddp-vnr-ogp レジメン

イントロダクション

肺がんは、がん死亡数の順位が1位(2022年)*1であり、治療の完遂には、薬剤師のフォローアップが肝要です。

シスプラチン+ビノレルビン療法は、非小細胞肺がんの術後補助化学療法の代表的なレジメン*2です。

免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬が登場し、これらは化学療法への併用や維持療法などで用いられ、治療法は大きく変貌しています。しかしながら、プラチナ製剤+第三世代抗がん剤の併用療法は、現在も肺がん治療の中核を担っています。

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化学療法レジメン一覧&がん種逆引き
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レジメン

シスプラチン+ビノレルビン(CDDP+VNR)療法

Day1Day8Day21
CDDP80mg/m2
VNR25mg/m2
21日毎 4コース

制吐療法

高度催吐性リスク(HEC)

Day 1Day 2Day 3Day 4
アプレピタント125mg80mg80mg
パロノセトロン0.75mg
デキサメタゾン9.9mg静注8mg経口8mg経口8mg経口
制吐療法の一例。参考文献:制吐薬適正使用ガイドライン

治療目的

  1. 非小細胞肺がんの術後補助化学療法
    • 肺癌診療ガイドライン*2に記載のある、代表的なレジメンです。再発を予防して、治癒させることが目的です。
  2. 進行性非小細胞肺がん
    • 肺癌診療ガイドライン*2で免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメンが推奨されているため、シスプラチン+ビノレルビン療法が選択されるのは、免疫チェックポイント阻害薬を使用できない場合に限られると考えます。延命および症状緩和が目的です。
ビノレルビンの作用機序:ビノレルビンは細胞周期のG2/M期において、微小管の重合を阻害し、紡錘糸の形成を阻害することで抗腫瘍効果を示します。
シスプラチンの作用機序:シスプラチンはDNA架橋し、細胞周期に関わらず抗腫瘍効果を示します。

副作用

シスプラチン+ビノレルビン療法に特徴的な副作用プロファイル

骨髄抑制が比較的強い(CDDP+VNR:Grade 3, 4好中球減少:81.1~88%)*3,4

ビノレルビンの特徴として、静脈炎の頻度が高い(CDDP+VNR:25.8~27%)*3,4

ビンカアルカロイド系であり、便秘の頻度が高い(CDDP+VNR:54~77.5%)*3,4

シスプラチンの特徴として、嘔気・嘔吐(CDDP+VNR:それぞれ47~86.6%・17.9~36%*3,4)、

末梢性感覚ニューロパチー(CDDP+VNR:8.6%*4)、聴覚障害(聴力低下・難聴:2.8%*5、耳鳴り:3.3%*5、総投与量300mg/m2を超えると出現の傾向は顕著になる*6)、

腎障害(ショートハイドレーション法では1L程度の経口補液が必要*7)があります。

ビノレルビンは壊死起因性抗がん剤に分類*8され、血管外漏出すると組織障害や壊疽を引き起こす場合もあり注意が必要です。

シスプラチンによる嘔気・嘔吐はしつこく、筆者は数週間続くケースも経験しており、脱水になると腎障害のリスクも高まります。【嘔気・嘔吐→脱水→腎障害→排泄遅延→副作用増強(嘔吐)】という悪循環のおそれがあり、特に注意が必要です。

細胞障害性抗がん剤に共通する副作用

目安ですが一般的なものを時期とともに記載します。

投与日:静脈炎、急性嘔吐、アナフィラキシーショック

投与翌日~1週間:遅発性嘔吐

1週間~3週間:粘膜障害(下痢、口内炎)、便秘

数週間~数ヶ月:神経障害

1コース終了後くらい:脱毛

血液検査としては、2週間後に好中球がNadir(底)となります。血小板の寿命が7〜10日程度のため、1〜2週間後に低下する場合があります。

赤血球の寿命が120日と長いため、貧血は数コース施行してから起こることが多いです。

その他の副作用:細胞障害性抗がん剤は、正常細胞にもダメージを与えるため、様々な副作用が起こりえます。その中でも間質性肺炎は命に関わることもあり特に注意が必要です。

フォローアップ

薬学管理

時期に応じて副作用を聴取して、疑義照会・トレーシングレポートに繋げると良いでしょう(市販薬のみで自己判断せず医療機関と連携したほうが良いでしょう)。

投与日:静脈炎・血管外漏出がないかを確認(聴取だけだなく目視する)します。必要に応じてステロイド外用薬*8などを提案します。血管外漏出があれば医療機関に連絡の上で受診勧奨も考慮します。

投与日〜1週間:嘔気・嘔吐、食事量、水分摂取量、排尿量・回数などを確認します。
必要に応じて制吐剤(予防投与と作用機序の異なるもの*9:例えばD遮断薬や、オランザピンなど)などを提案します。
脱水の可能性があれば腎障害を防ぐために補液点滴の追加*7を医療機関と相談の上で考慮します。

1週間~3週間後:便秘を確認します。必要に応じて定期緩下剤+屯用刺激性下剤などを提案します。

長期:聴覚障害や神経障害を確認します。一般的に減量や休薬にて対応しますが、抗腫瘍効果が減弱する点には注意が必要です*10ので、治療目的(治癒か、緩和か)と患者の意向は確認したほうが良いでしょう注意。または、神経障害に対しては対症療法(エビデンスに乏しいがプレガバリンや、保険適応外だがデュロキセチンなど)も考慮します。

注意

治癒目的の場合、減薬・休薬による再発へのリスクは不明のため、生活に支障のある末梢神経障害があったとしても、規定の治療を完遂して再発させないというメリットが上回る可能性があります。

延命および緩和目的の場合、重度の末梢神経障害になると、患者さんが大切にしている生活や趣味に支障が生じてしまうかもしれません。

どちらにせよ、減薬・休薬の提案の前に、十分な説明および患者さんが人生で何を重視しているかを聴取して、患者さんとともに考えることが大切です。

生活上のアドバイス

血管外漏出・静脈炎:組織障害や壊死のおそれがあるため、点滴中に痛みや腫れに気づいたらすぐに医療スタッフに伝えるように指導します。静脈炎は、次回その血管からの抗がん剤の投与は避けたほうが良いため、必ず伝えるように指導します。

嘔気・嘔吐:不安自体が嘔吐の原因となる*9ため、過度な不安を煽らないように説明します(予防投与がされていることを十分に説明)。それでも発現した場合は、我慢せずに症状があることを伝えてもらうよう指導します(嘔吐の経験は、予期性嘔吐の原因となる*9ため)。また、食べやすいものを食べてもらう(匂いの強いものは食べづらい傾向がある)など、工夫するよう指導します。

腎障害:シスプラチンによる腎障害を防ぐため、脱水にならないよう十分な水分摂取を指導します。これは、ビノレルビンによる便秘を防ぐことにも繋がります。水分が取れないほど嘔気・嘔吐が強い場合は、補液点滴が必要な場合があり相談するよう指導します。

脱毛:1コースが終了する前に、ウィッグなど脱毛に対する準備をしておくことを説明します。洗髪の際は、指の腹で洗うようにするなど、頭皮へ負担をかけないように指導します。

好中球減少:化学療法から2週間後は、一般に好中球数が最も低くなるので(Nadir)、手洗いうがいの励行・人混みを避ける・新鮮なものを食べるようにするなど、感染予防に努めるように指導します。

間質性肺炎:空咳、発熱、呼吸困難感があれば間質性肺炎の可能性があるため、受診するよう指導します。

スペシャル・ポピュレーション

腎機能障害

シスプラチンは腎機能に応じて投与量を調整することがあります。

Ccr(mL/min)60〜4645〜3030未満
CDDP75%50%投与を推奨しない
シスプラチン投与量調整の一例。参考文献:がん薬物療法時の腎障害診療ガイドライン 2022

肝機能障害

ビノレルビンは肝代謝のため、副作用が強くあらわれるおそれがあります。また、主にCYP3A4で代謝されます。

参考文献

*1:最新がん統計:[国立がん研究センター がん統計] (ganjoho.jp)

*2:肺癌診療ガイドライン2023年版

*3:Randomized phase III study of cisplatin plus irinotecan versus carboplatin plus paclitaxel, cisplatin plus gemcitabine, and cisplatin plus vinorelbine for advanced non-small-cell lung cancer: Four-Arm Cooperative Study in Japan – PubMed (nih.gov)

*4:Randomized Phase III Study of Pemetrexed Plus Cisplatin Versus Vinorelbine Plus Cisplatin for Completely Resected Stage II to IIIA Nonsquamous Non-Small-Cell Lung Cancer – PubMed (nih.gov)

*5:ランダ®添付文書

*6:重篤副作用疾患別対応マニュアル_難聴

*7:シスプラチン投与におけるショートハイドレーション法の手引き

*8:がん薬物療法に伴う血管外漏出に関する合同ガイドライン 2023年版 第3版

*9:制吐薬適正使用ガイドライン

*10:がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き

免責事項

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者の治療を指示するものではありません。具体的な治療に関しては、担当の医師・薬剤師が最終的な判断を行ってください。

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