イントロダクション
IP療法は、肺がん、子宮頸がん、卵巣がんで使用されるレジメンです。特に、小細胞肺がんにおける術後補助化学療法は、治癒を目標とするため、治療完遂することが重要です。
肺がんは、がん死亡数の順位が1位(2022年)*1であり、治療の完遂には、薬剤師のフォローアップが肝要です。
下記のレジメン一覧&がん種逆引きツールもご活用ください。
レジメン
IP療法
小細胞肺がん、子宮頸がん、卵巣がん
Day 1 | Day 8 | Day 15 | … | Day 28 | ||
CDDP | 60mg/m2 | ○ | ||||
CPT-11 | 60mg/m2 | ○ | ○ | ○ |
非細胞肺がん
Day 1 | Day 8 | Day 15 | … | Day 28 | ||
CDDP | 80mg/m2 | ○ | ||||
CPT-11 | 60mg/m2 | ○ | ○ | ○ |
制吐療法
高度催吐性リスク(HEC)
Day 1 | Day 2 | Day 3 | Day 4 | |
アプレピタント | 125mg | 80mg | 80mg | |
パロノセトロン | 0.75mg | |||
デキサメタゾン | 9.9mg静注 | 8mg経口 | 8mg経口 | 8mg経口 |
治療目的
副作用
IP療法に特徴的な副作用プロファイル
骨髄抑制(GC:Grade 3以上の好中球減少:84%)*5の頻度は高めです。
イリノテカンの最も特徴的な副作用は下痢(IP:全Gradeで49%、Grade 3以上で16%)*5です。
その他、嘔気・嘔吐(IP:それぞれ61%・51%)*5、倦怠感(IP:40%)*5、脱毛(IP:30%)*5の頻度も高いです。
また、クレアチニン上昇(9%)*5の頻度も、他のプラチナ+第三世代抗がん剤併用療法と比較して高く、これはイリノテカンによる下痢とシスプラチンによる腎障害の両者が影響していると考えます。
シスプラチンの特徴として、末梢神経障害(1〜10%未満)*6、腎障害(ショートハイドレーション法では1L程度の経口補液が必要*7)があります。
シスプラチンによる嘔気・嘔吐はしつこく、筆者は数週間続くケースも経験しており、脱水になると腎障害のリスクも高まります。【嘔気・嘔吐→脱水→腎障害→排泄遅延→副作用増強(嘔吐)】という悪循環のおそれがあり、さらにイリノテカンによる下痢も脱水のリスクを高めるため、特に注意が必要です。
細胞障害性抗がん剤に共通する副作用
目安ですが一般的なものを時期とともに記載します。
投与日:静脈炎、急性嘔吐、アナフィラキシーショック、早発性下痢(イリノテカン)
投与翌日~1週間:遅発性嘔吐、遅発性下痢(イリノテカン)
1週間~3週間:粘膜障害(下痢、口内炎)、便秘
数週間~数ヶ月:神経障害
1コース終了後くらい:脱毛
血液検査としては、2週間後に好中球がNadir(底)となります。血小板の寿命が7〜10日程度のため、1〜2週間後に低下する場合があります。
赤血球の寿命が120日と長いため、貧血は数コース施行してから起こることが多いです。
その他の副作用:細胞障害性抗がん剤は、正常細胞にもダメージを与えるため、様々な副作用が起こりえます。その中でも間質性肺炎は命に関わることもあり特に注意が必要です。
フォローアップ
薬学管理
時期に応じて副作用を聴取して、疑義照会・トレーシングレポートに繋げると良いでしょう(市販薬のみで自己判断せず医療機関と連携したほうが良いでしょう)。
投与日:イリノテカンによる早発性下痢がないかを確認します。コリン作動性による腸管蠕動運動亢進が原因のため、抗コリン薬で対応することが一般的です。
投与日〜1週間:
●イリノテカンによる遅発性下痢がないかを確認します。活性代謝物であるSN-38による腸粘膜障害が原因とされています。抗コリン薬やロペラミド等で対応しますが、重症の場合は補液投与が必要な場合もあり受診勧奨も考慮します。SN-38はグルクロン酸抱合を受けSN-38Gとして胆汁排泄されますが、SN-38Gは腸内細菌のβ-グルクロニダーゼによりSN-38へと脱抱合され再吸収されます(腸肝循環)。そこで、β-グルクロニダーゼ阻害作用のある半夏瀉心湯が下痢に対して用いられることがあります*8。
●嘔気・嘔吐、食事量などを確認します。
必要に応じて制吐剤(予防投与と作用機序の異なるもの*9:例えばD遮断薬や、オランザピンなど)などを提案します。
脱水の可能性があれば腎障害を防ぐために補液点滴の追加を医療機関と相談の上で考慮します。
1週間~3週間後:便秘を確認します。必要に応じて定期緩下剤+屯用刺激性下剤などを提案します。イリノテカンは下痢が有名ですが、便秘は胆汁排泄された代謝物SN-38Gの腸管排泄遅延を招くため、排便コントロールも非常に重要です。
長期:末梢神経障害を確認します。一般的に減量や休薬にて対応しますが、抗腫瘍効果が減弱する点には注意が必要です*10。または、末梢神経障害に対しては対症療法(エビデンスに乏しいがプレガバリンや、保険適応外だがデュロキセチンなど)も考慮します。
生活上のアドバイス
下痢:イリノテカンによる下痢は重症化する場合もあり、止瀉薬の適切な使用を指導します。脱水にならないように水分摂取を促し、腸へ負担のかかる飲食物(刺激物など)は避けるように指導します。下痢の頻度が多すぎたり、水分摂取が困難な場合には、相談するよう指導します。
嘔気・嘔吐:不安自体が嘔吐の原因となる*9ため、過度な不安を煽らないように説明します(予防投与がされていることを十分に説明)。それでも発現した場合は、我慢せずに症状があることを伝えてもらうよう指導します(嘔吐の経験は、予期性嘔吐の原因となる*9ため)。また、食べやすいものを食べてもらう(匂いの強いものは食べづらい傾向がある)など、工夫するよう指導します。
腎障害:シスプラチンによる腎障害を防ぐため、脱水にならないよう十分な水分摂取を指導します。水分が取れないほど嘔気・嘔吐が強い場合は、補液点滴が必要な場合があり相談するよう指導します。
脱毛:1コースが終了する前に、ウィッグなど脱毛に対する準備をしておくことを説明します。洗髪の際は、指の腹で洗うようにするなど、頭皮へ負担をかけないように指導します。
好中球減少:化学療法から2週間後は、一般に好中球数が最も低くなるので(Nadir)、手洗いうがいの励行・人混みを避ける・新鮮なものを食べるようにするなど、感染予防に努めるように指導します。
間質性肺炎:空咳、発熱、呼吸困難感があれば間質性肺炎の可能性があるため、受診するよう指導します。
スペシャル・ポピュレーション
腎機能障害
シスプラチンは腎機能に応じて投与量を調整することがあります。
Ccr(mL/min) | 60〜46 | 45〜30 | 30未満 |
CDDP | 75% | 50% | 投与を推奨しない |
肝機能障害
イリノテカン:肝障害のある患者は副作用が強く発現する可能性があります。
参考文献
*1:最新がん統計:[国立がん研究センター がん統計] (ganjoho.jp)
*6:ランダ®︎添付文書
*7:シスプラチン投与におけるショートハイドレーション法の手引き
*8:Preventive effect of Kampo medicine (Hangeshashin-to) against irinotecan-induced diarrhea in advanced non-small-cell lung cancer – PubMed (nih.gov)
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個々の患者の治療を指示するものではありません。具体的な治療に関しては、担当の医師・薬剤師が最終的な判断を行ってください。
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