AUC上昇比の予測計算ツール


なぜ注意が必要か(コルヒチンを例に)
腎不全患者にコルヒチンとクラリスロマイシンを併用して、88人中9人(10.2%)が重篤な転帰(詳細は原著参照)へ至った報告1)があります。
これは、コルヒチンが主にCYP3A4で代謝され、残りの20%程度が腎排泄であるから、コルヒチンのクリアランスの大半が枯渇してしまって、血中濃度が大幅に上昇した可能性が考えられます。

図1のように、AUCと全身クリアランス(CLtot)は反比例するため、CLtotが非常に小さい場合、AUCの上昇の幅が大きくなることが分かります。
大半の薬物は肝代謝+腎排泄の両方の関与があります。肝代謝型や腎排泄型は、あくまで主たる代謝・排泄経路の分類であるため、その分類に囚われず、注意が必要と考えます。
解説と使用方法
解説(数式)
有名な薬物動態の式に基づいています。
CLtot=AUC/Dose 全身クリアランスとAUCは反比例する…➀
(CLtot:全身クリアランス、AUC:血中濃度曲線下面積、Dose:投与量)
CLtot=CLh+CLr 全身クリアランスは各臓器のクリアランスの総和となる…②
(CLh:肝クリアランス、CLr:腎クリアランス)
⓶より、代謝・排泄機能低下時のCLtotの残存する割合は、各クリアランスの低下分を差し引けば求められるので、
代謝・排泄機能低下時のCLtotの残存する割合=
1-「肝代謝・トランスポーターの寄与率」×「肝代謝(CYP分子種)のクリアランスの低下する割合」-「腎排泄の寄与率」×「腎クリアランスの低下する割合」…③
➀より、AUCはCLtotと反比例するので、
仮にCLtotが1/4に低下すれば、AUCが4倍になります。これを式にすると、
AUCの上昇比=1/代謝・排泄機能低下時のCLtotの残存する割合…④
なお、肝代謝(CYP分子種)のクリアランスは下記のIR-CR法参考文献2)が参考になります。
AUCの上昇比=1/(1-CR×IR)…⑤
なお、腎クリアランスは下記のgiusti-hayton法参考文献3)が参考になります。
投与補正係数 = 1 – 尿中排泄率×(1−Ccr腎機能低下/100)…⑥
そのため、IR-CR法とgiusti-hayton法を組み合わせることにより、式④は下記とも言い換えることができます。
AUCの上昇比=1/(1-CR×IR-尿中排泄率×(1-Ccr腎機能低下/100)) …⑦
解説(分かりやすく)
全身クリアランスは、各臓器のクリアランスの総和です。ここで、肝臓による代謝と、腎臓による排泄の両方が関与する薬物があったとします。
肝クリアランスと腎クリアランスの両方が低下した場合、残存する全身クリアランスは、とても小さくなります(式③)。
すると、図1のように、AUCが大きく上昇してしまいます。
仮に、全身クリアランスが正常(1とする)と比べて0.1まで低下したと考えます。その場合、式④より、AUCは1÷0.1と10倍上昇すると予測されます。
使用方法
イグザレルト(リバーロキサバン)を例に挙げます。
リトナビル
健康成人男子12例にリトナビル600mgとリバーロキサバン
イグザレルト添付文書より引用改変
10mgを併用投与した際、イグザレルトのAUCは2.5倍、
Cmaxは1.6倍上昇し抗凝固作用が増強された(外国人データ)
リトナビルはCYP3A4を強力に阻害します。IRは1参考文献4)ですので、「肝クリアランスの低下する割合」に1を入力し、イグザレルトの「肝代謝(CYP分子種)の寄与率」を探ります。

「肝代謝の寄与率」のバーを動かすと「AUCの上昇比」が増えていきます…2.5と表示されたところで止めます。「肝代謝(CYP)分子種の寄与率」は0.6と推測されました。
リバーロキサバンを静脈内投与した際、全身クリアランスは約
イグザレルト添付文書より引用
10L/hであり、投与量の42%が未変化体のまま腎排泄された。健
康成人男子4例に[14C]リバーロキサバン10mgを単回経口投与し
た際、投与量の約2/3は不活性代謝物として尿中及び糞中に排泄
され、残りの約1/3が未変化体のまま腎排泄された(外国人データ)
「腎排泄の寄与率は」33%~42%で、一旦ここでは40%と仮定します。
ここで、腎機能低下のみがあった場合のAUCの上昇比を推測してみます。
「腎クリアランスの低下する割合」は下記の式で予測できます(式⑥giusti-hayton法の一部です)。

クレアチニンクリアランス(Ccr)が20であった場合、「腎クリアランスの低下する割合」は1-(20/100)=1-0.2=0.8となります。

腎機能低下のみでは、イグザレルトのAUCは約1.5倍に上昇すると推測されます。
ここで、さらにCYP3A4阻害薬を併用するとどうなるでしょうか?クラリスロマイシンを例に考えてみます。
IRは0.88と報告参考文献2)されていますので、「肝代謝(CYP分子種)のクリアランスの低下する割合」に0.88と入力します。

Ccr=20の腎機能低下者に、クラリスロマイシンを併用すると、イグザレルトのAUCは約6.7倍に上昇すると予測されます。
腎クリアランスの低下のみでは、AUCは約1.5倍にしか上昇しないにも関わらず、
腎機能低下と強力なCYP3A4阻害薬が合わさることによって、
複数(腎および肝)のクリアランスが阻害され、
予測されるAUCは約6.7倍にまで上昇するのは、
直観と反するのではないでしょうか?
まとめ
複数の経路(肝・腎・トランスポーター)のクリアランスが阻害されると、想像以上にAUCが上昇することが予想されるため、注意が必要です。
イグザレルトを例に挙げていますが、DOAC全般に注意が必要です。また、DOAC以外にも腎排泄と相互作用の両者の影響を受ける薬剤は多数存在すると考えられます。
参考文献
- Hung, I F N et al. Fatal interaction between clarithromycin and colchicine in patients with renal insufficiency: a retrospective study. Clin Infect Dis. 2005 Aug 1;41(3):291-300. doi: 10.1086/431592. Epub 2005 Jun 23.
- Ohno, Y et al. General framework for the quantitative prediction of CYP3A4-mediated oral drug interactions based on the AUC increase by coadministration of standard drugs. Clin Pharmacokinet. 2007;46(8):681-96.
- Giusti DL, Hayton WL: Dosage regimen adjustment in renal impairment. Drug Intel Clin Pharmacy 1973; 7: 382-387.
- Loue C, Tod M. Reliability and extension of quantitative prediction of CYP3A4-mediated drug interactions based on clinical data. AAPS J. 2014 Nov;16(6):1309-20.
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